沿岸漁民の生計維持と漁業後継者育成を
重視したクロマグロ漁業管理政策を求める
要望書
国連やFAOなどでは家族農業や小規模漁業を大切にし、加盟各国に対して農漁業政策実施にあたっては小規模農民・漁民の生活権や生存権に配慮した政策を実施するよう下記の国連関係文書に明記しています。国連では「家族農業」を「家族が経営する農業、林業、漁業・養殖、牧畜であり、男女の家族労働力を主として用いて実施されるもの」と定義、「家族農業」同様「小規模漁業」の重要性を指摘しています(協同組合研究誌「にじ」2020春号参照)。
●国連関係文書
FAO「責任ある漁業のための行動規範」(1995)
「中西部太平洋マグロ類条約(WCPFC)」(2004)
CFS国連世界食料保障委員会ハイレベル・パネル報告(2014)
SDGs持続可能な発展目標(2015)
国連「家族農業の10年」決議(2017)
農民の権利に関する国連宣言(2018)
しかし、日本の漁業政策は、慎重審議を求める沿岸漁民・漁協の声を無視し、強行成立させた「改正漁業法」にみられるように、企業資本漁業を優先し地域沿岸漁民の自治権をはく奪し、沿岸漁民・漁協の経営を衰退に導くものであるといわざるをえません。2015年から実施されているクロマグロの漁業管理政策・小規模沿岸漁業への漁獲割当制度はまさにその先例と言って過言ではありません。現状の管理政策下では沿岸クロマグロ漁民の生活は成り立たず、地域漁協の経営も困難な状況に直面しています。
国は、国連の諸決議・報告にのっとり、小規模・沿岸・家族漁業の振興を重視した水産政策に転換することを求め要望します。
要望事項
クロマグロはTACの第6漁獲管理期間にあり、全国沿岸クロマグロ漁民の反対にもかかわらず、つりやはえなわ漁業など小規模沿岸漁業に強い漁獲規制をかけ続けたままとなっている。
そのため、各地の沿岸漁家や漁協経営が困難に直面する状況になっていることから、クロマグロの漁業管理については沿岸小規模漁業および地域漁協の経営に配慮した管理内容とするよう、以下の点を強く要望する。
(1)沿岸つり・はえなわ漁業は、本来資源に悪影響をおよぼす漁法ではないこと、全国各地の漁協や漁村の経済をささえる漁業であることなどを考慮し、国連決議や国際漁業条約にある「小規模漁業配慮条項」にのっとり基本的にはTAC対象からはずすこと。
(2)TAC管理対象とする場合は、沿岸クロマグロ漁民の生活、地域漁協の経営維持の観点から、大型魚・小型魚とも沿岸つり・はえなわ漁獲枠を大幅に増やすこと。資源が増加しているのに国際交渉で増枠できないのでは国の国際交渉のあり方や国の指導方針に疑問を感じざるをえない。
(3)第5管理期間の配分枠に対する漁獲実績は大中型まき網漁業では小型魚94%、大型魚99%であるのに対し、つり・はえ縄を含む知事管理漁業は小型魚で76%、大型魚で72%である。第4管理期間も知事管理漁業は小型魚で79%、大型魚で53%であった。これは、つり・はえ縄漁業の特性を考慮せず小規模漁業者に小さな漁獲枠しか与えないために起こる国のTAC制度の欠陥である。取り残し枠は資源を温存したのであるから翌年に100%上乗せをすることは当然であり、これを強く要求する。
(4)20数経営体の大中まき網漁業に対して、沿岸つり・はえなわ経営体は2万を超える。当初からの沿岸漁民の反対にもかかわらずクロマグロのTAC制度では大臣許可と沿岸漁業を2分の1ずつとする漁獲配分からスタートしており、現在もその基本ベースで配分が決められている。そのため魚が増えても沿岸漁業に対する大型魚の配分枠が少なく、大型魚が増えても現在の配分枠では大中まき網漁業の漁獲となり、小型魚規制は大中まき網漁業のための規制となっている。基本的な漁獲枠配分を経営体数に配慮した配分に見直すべきである。
(5)現在の実績主義のTAC管理方式では、将来を担う若手漁業者を新規参入できない状況に追いやっている。TAC配分は単純な実績主義で行うこと無く、圧倒的多数の沿岸漁業の発展を指向する未来志向・後継者育成の観点を考慮したものとすること。
(5)TAC管理にあたっては、沿岸つり・はえなわ漁業と定置漁業・県まき網などの沿岸漁獲枠を一体管理枠とするべきではない。北海道クロマグロ訴訟で問題となった事例のように、定置網での漁獲増影響が小規模な沿岸つり・はえなわ漁業を圧迫しない制度とすること。
(6)北海道では、定置網の過大漁獲により、枠を遵守していた沿岸つり・はえなわ漁民にまで6年間小型マグロ漁獲量の基本配分量をゼロにしている。北海道のつり・はえ縄漁民を苦しめるこの措置を早く解消し、沿岸漁民が安心してマグロ漁業を営めるようにすること。
(7)未加入者もいる保険制度である漁業共済制度だけでは生活はなりたたないことから、抜本的なクロマグロ所得補償対策を確立すべきこと。
(8)北海道や青森、対馬など全国各地で、増加したクロマグロによるイカ釣りやブリはえ縄漁などの漁具被害が頻発し、漁業操業を困難にしている。クロマグロの漁獲規制によっておきているこれらの漁業被害に対する救済対策を行うこと。
(9)大中まき網による漁獲圧力は、その探索能力、漁獲能力から強大である。西欧でもTAC管理の弱点として「低価格魚」「小型魚」の海上投棄が問題とされており、日本でも大中まき網漁業による海上投棄が疑われている。大臣管理である日本の大中まき網漁業でも大型魚だけが入網しているとは考えられない。オブザーバーの乗船、監視カメラの搭載を行い、不法投棄などの操業不正がないか監視を行うこと。
(10)沿岸漁民が厳しい漁獲規制をうけているにもかかわらず遊漁船やプレジャーボートによるクロマグロ操業が活発に行われ、漁獲されたクロマグロが販売されている実態もある。このような現状に対して行政の介入もなく野放しの状態である。厳しい規制を強いられている沿岸漁民も我慢の限界である。沿岸つり漁民に厳しい規制を押し付けるなら水産庁としてレジャー船規制について沿岸漁民が納得できる制度をつくりきびしく取締をおこなうことを要求する。
以上