2023年11月29日
農林水産大臣 宮下一郎 殿
水産庁長官 森 健 殿
大臣許可漁業操業から沿岸漁場・資源を守ることを求める要望書
JCFU全国沿岸漁民連絡協議会
共同代表および役員
高松幸彦(北海道北るもい漁協)
瀧澤英喜(岩手県越喜来漁協)
鈴木重作(山形県漁協)
鈴木正男(千葉県沿岸小型漁船漁協)
杉本武雄(和歌山県東漁協)
西川征二(長崎県美津島町漁協)
下山浩助(北海道戸井漁協)
泉 徳隆(青森県大間漁協)
能登勝男(青森県奥戸漁協)
嶋津圭一(千葉県新勝浦漁協)
片山 勇(三重県三重外湾漁協)
松村宗典(長崎県美津島町西海漁協)
高橋拓也(沖縄県八重山漁協)
根本勝洋(茨城県那珂湊漁協)
梅野萬寿男(長崎県厳原漁協)
宇津井知可志(長崎県上対馬漁協)
岡田三市(三重県三重外湾漁協)
常日頃より沿岸漁業振興にご尽力いただいていることに感謝申しあげます。
さて、「家族農業(漁業)の10年(2019-2028)」の国連決議(2017)に見られるように、国連は小規模・家族農漁業の振興を世界各国によびかけています。しかし、わが国では新漁業法の成長産業化政策の下、大臣許可漁業における増トン化、設備の高度化がすすめられるとともに、資源が激減した状況にあっても大臣許可漁業による沿岸つり漁業対象資源・漁場等に対する漁獲圧が強められ、沿岸漁業経営は一層困難な状況に追いやられています。
本来、沖合底びき網や大中まき網など強大な漁獲圧力を持つ大臣許可漁業は水産資源の安定的条件の元でのみ操業許可されるべきもので、零細な沿岸漁業の資源や漁場操業に悪影響をおよぼすものであってはなりません。さらに、これら大臣許可漁業は、資源への漁獲圧力がきわめて高いがゆえに監督官庁は常にきびしく操業状況に注意をはらい、監督・指導を行うべきものです。
とくに、今回は大臣許可漁業操業で沿岸漁業操業が圧迫を受け続けている地域の要望をとりあげ、大臣許可漁業が零細な沿岸漁業の資源と漁場を尊重した節度ある操業を行うよう、監督官庁である農水省が指導するよう強く要望するものです。
私たちは日本周辺の水産資源を守り、沿岸漁業、沖合漁業がともに持続的産業として発展することを願うものです。
具体的要望事項
(八戸沖スルメイカ操業について)
1.スルメイカ資源は現在きわめて低水準の状況下にあり、八戸沖スルメイカ漁場では沖合底びき網漁業・大中まき網漁業がスルメイカ操業をすると沿岸イカ釣り漁場が消失する状況が近年続いている。このことから八戸沖の大臣許可のスルメイカ漁業操業については規制を強めることを要望する。
2.八戸海区の沖合底びき漁業では、当初のTAC割当量を消化したのち、他海区の未消化TAC枠の追加配分を受けて、年末まで長く操業を続ける実態がある。全国の未消化TAC枠を八戸沖漁場へ集中させ漁獲することで、八戸沖の沿岸小型イカつり漁業は操業上強い圧迫を受け続け、資源の枯渇は著しいものとなっている。このことから他海区の未消化TAC枠を八戸沖沖底操業船に追加配分しないよう強く要望する。
3.八戸沖における大臣許可の沖合底びき網漁業により、春季に小型イカ(胴長10cm、重量25g程の幼魚、チビイカ)が毎年大量に水揚げされている。春季、沖合底びき網で小型イカを多獲することは沿岸イカ釣り漁業が対象とする夏イカへの加入を減少させることにつながり、資源管理上の観点からも重大な問題点である。サイズ規制措置を導入し、沖合底びき網操業において小型イカ漁獲を禁止するよう強く要望する。
4.八戸沖の大中型まき網によるスルメイカ操業は、サバ・マイワシ資源が減少し、スルメイカ資源がまだ潤沢であった1990年代に代替え資源として操業が許可されたものである。現在、マイワシおよびマサバ資源は復活し、大中型まき網漁獲量は増加し安定した生産を行っている。したがって、スルメイカ資源の激減した状況下にある現状を考慮し、大中型まき網への八戸沖スルメイカ操業許可を見直し、廃止することを強く要望する。八戸沖からの南下移動が確認されていた千葉県などでのスルメイカ沿岸つり漁場も、八戸沖における大中型まき網漁業によるスルメイカ漁業操業以降、消失している。これら太平洋沿岸の沿岸小型イカつり漁業再興を図る観点からもぜひとも実行されたい。
(対馬沖アカムツ操業について)
5.8月中旬の以東底びき網解禁後、他県の大臣許可沖合底びき網船が長崎県対馬海域に集中しアカムツの乱獲的漁業を行っている。このことにより対馬の沿岸立縄釣り漁業が経営困難となっていることから規制強化いただきたい。
6.対馬の沿岸漁民には知らされぬまま、他県の大臣許可沖合底びき網船が70トン型から125トン型へ大型化され、対馬沖アカムツ操業に参入している。沿岸漁業資源を守るためにも大型化した沖合底びき網船は距岸8マイル沖以遠で操業するよう指導強化いただきたい。
(対馬沖まき網操業について)
7.対馬海域を操業する大臣許可まき網漁船についても、新漁業法下で80トンから150トンへ増トンした。沿岸漁業資源を守るためにも150トンへ増トンしたまき網船については距岸8マイル以遠での操業を行うよう指導強化いただきたい。
(クロマグロのTAC管理について)
8.沿岸つり・はえなわ漁業は、本来資源に悪影響をおよぼす漁法ではないこと、全国各地の漁協や漁村の経済をささえる漁業であることなどを考慮し、国連決議や国際漁業条約にある「小規模漁業配慮条項」にのっとり沿岸つり・はえなわのクロマグロ漁獲枠を大幅に増やすこと。
9.20数経営体の大中まき網漁業に対して、沿岸つり・はえなわ経営体は2万を超える。当初からの沿岸漁民の反対にもかかわらず、国はクロマグロのTAC配分を根拠なく大臣許可と沿岸漁業を2分の1ずつとする漁獲配分からスタートさせた。そのことにより、沿岸漁家に対する配分枠がきわめて小さくなっており、沿岸漁業者はクロマグロが来遊しても漁獲することができずに経営が困難となっている。大臣許可と沿岸漁業の漁獲配分を原点に戻って見直し沿岸漁業の漁獲配分を大幅に増加させるよう強く要望する。
10.TAC管理にあたっては、沿岸つり・はえなわ漁業と定置漁業・県まき網などの沿岸漁獲枠を一体管理枠とするべきではない。北海道クロマグロ訴訟で問題となった事例のように、定置網での漁獲増影響が小規模な沿岸つり・はえなわ漁業を圧迫しない制度とするよう要望する。
(大臣許可漁船への監視カメラ搭載について)
11.大中型まき網、沖合底びき網漁業による漁獲圧力は、その探索能力、漁獲能力から強大である。西欧でもTAC管理の弱点として「低価格魚」「小型魚」の海上投棄が問題とされている。日本でも大中まき網や沖合底びき網漁業による海上投棄が問題化されている。資源管理を推進する国の方針に基づき大臣許可漁業操業の透明性を確保するためにも、監視カメラを搭載し、位置情報とともに情報を公開するよう強く要望する。